
化学合成で得られる混合物をそのまま利用できる微生物が開発されれば、農地に頼ることなく化学合成で原料を作り、微生物によって燃料・化学品・食料などを作り出す「次世代型バイオものづくり」が実現するかもしれません。
バイオものづくりをもっと高効率に
化学合成と協働できる微生物の開発で持続可能な生産へ

化学合成で得られる混合物をそのまま利用できる微生物が開発されれば、農地に頼ることなく化学合成で原料を作り、微生物によって燃料・化学品・食料などを作り出す「次世代型バイオものづくり」が実現するかもしれません。
バイオものづくりをもっと高効率に
化学合成と協働できる微生物の開発で持続可能な生産へ
研究によって実現したい未来
食糧生産と競合しないバイオものづくりへ
化石燃料から生産されている燃料やプラスチックなどを、生物由来の素材や微生物の力を利用して作り出す「バイオものづくり」が注目されています。いま最も広く実用化されているのは、トウモロコシやサトウキビなどの農作物から得られるグルコースやショ糖を原料に、微生物が燃料(エタノール)や化学品(乳酸、コハク酸などのプラスチック原料)を生産する方法です。

しかし、この方法はグルコースを得るために農作物を栽培する必要があるため、食料生産との競合が起こります。また、農地に適した場所でしか原料を生産できないといった制約もあり、長期的な持続可能性を考えると課題が残ります。
もし、化学合成によって微生物が利用可能な原料を作ることができれば、農地と競合しない場所で原料を生産でき、条件によってはより効率的に大量生産することも可能になります。大量生産が得意な化学合成と、複雑な有機物の生産を担う微生物、それぞれの長所を組み合わせることができれば、バイオものづくりの持続可能性は飛躍的に向上すると考えられます。
ただし、糖類のように形や向きが少し違うだけで別の物質になってしまう複雑な構造をもつ化合物は、狙ったものだけを選んで作ることが難しく、工業的な実用化には至っていません。選択性を高める研究は進められていますが、化学的な触媒反応で選択性を高めるには原理的な限界があるため、完全に解決するには新たなアプローチが必要です。
純粋物でなくても利用できる微生物の開発
そこでカギとなるのが、化学合成で得られる混ざりものの多い原料をそのまま利用できる微生物の開発です。化学合成で得られる天然にはほとんど存在しないような糖も利用し、複数の原料が混ざっていてもエサとして代謝できる微生物が登場すれば、化学合成と微生物の協働が可能になります。

そのような微生物が開発されれば、化学合成によって超高速に作られた糖を使って、効率的なバイオものづくりを行えるようになります。原料が化学合成によって生産できれば、農地という制約から解放され、さまざまな可能性が広がります。たとえば、発電所のそばに工場を建て、発電所の余剰電力で化学合成で原料を生産し、微生物にバイオ燃料を作らせることも可能になります。砂漠や海上、さらには宇宙空間など、農地と競合しない環境でも微生物生産が行えるかもしれません。農作物を育てるプロセスがなくなるため、肥料や水の使用も大幅に削減できます。
具体的には以下のような将来像が期待できます。
- 農地に依存せず、発電所や化学工場など任意の場所で必要な化学品や燃料を生産できるようになる。
- 砂漠・海上・極地・宇宙など、これまで生産拠点にできなかった環境でのものづくりが可能になる。
- 食料・肥料・飼料などの生産が安定化し、気候変動や地政学リスクの影響を受けにくいサプライチェーンが構築される。
- 化学合成の高速性と微生物生産の多様性を組み合わせることで、従来の方法では作れなかった新しい素材や化合物の開発が進む。
- 水や肥料、土地の使用量を大幅に削減でき、環境負荷を抑えながら生産活動を維持する次世代型バイオものづくりが実現する。
化学合成と微生物の力が協働することで、環境への負荷を抑えつつ、これまでにない効率と柔軟性を備えた革新的なものづくりが可能になります。持続可能な社会の実現に向けて、バイオものづくりは新たなステージへと進もうとしています。
未来につながる現在の技術
従来から知られている糖の化学合成法「ホルモース反応」では、糖がランダムに生成してしまい、実際には何百種類もの混合物しか得られません。ところが最近の研究では、反応条件や触媒を工夫することで、ある程度選択的に糖を合成できる手法が報告され始めています。これらの反応では、栽培作物の10万倍もの速度で糖を合成できる可能性が示されており、化学合成による原料生産の実現性が一段と高まりつつあります。
一方、化学合成で得られる天然にはほとんど存在しないような糖を利用できる微生物も見つかっています。これらの微生物が複数の糖をどのように代謝しているのか、そのメカニズムが詳細に解析され、代謝経路やその制御に関わる遺伝子情報が研究されています。こうした知見に基づき、特定の機能を担う遺伝子を有用物質生産菌に導入するなどの代謝工学を行えば、複数の原料を同時に利用できる微生物の開発も現実味を帯びてきます。

