
貝やサンゴなどの海洋生物は、CO₂が水に溶けた炭酸イオンと海水中のカルシウムを使って炭酸カルシウムを生成します。この「バイオミネラリゼーション」の原理を解明・模倣できれば、低エネルギーで持続可能な炭素固定技術が実現します。
貝やサンゴに学ぶ、地球温暖化対策の新たなヒント
海洋生物が鉱物を作り出す反応を応用し、CO₂を資源へと変える

貝やサンゴなどの海洋生物は、CO₂が水に溶けた炭酸イオンと海水中のカルシウムを使って炭酸カルシウムを生成します。この「バイオミネラリゼーション」の原理を解明・模倣できれば、低エネルギーで持続可能な炭素固定技術が実現します。
貝やサンゴに学ぶ、地球温暖化対策の新たなヒント
海洋生物が鉱物を作り出す反応を応用し、CO₂を資源へと変える
研究によって実現したい未来
海洋生物が行う炭素固定―バイオミネラリゼーションの可能性
地球温暖化の主な原因とされる大気中の二酸化炭素(CO₂)を、どのようにして安定した形で貯蔵(炭素固定)し、減らしていくかは、現代科学の最重要課題の一つです。森林の再生や植林によって光合成を通じてCO₂を植物体内に固定する方法は有効ですが、利用できる土地の制約や時間のかかる成長過程、植物が死んだり燃やされたりした際に再びCO₂が放出されるといった課題があります。
一方、化学的吸着や触媒反応を利用した人工的な固定技術も開発がすすめられていますが、反応に大量のエネルギーを必要とするため、かえってCO₂排出を増やす場合もあり、コスト面からも実用化には至っていません。
こうした中で、生物が炭酸カルシウムを形成してCO₂を安定的に固定する現象「バイオミネラリゼーション」が新たな炭素循環の鍵として注目されています。

炭酸カルシウムがつくる新しい産業と循環
地球上に広く分布する石灰岩の多くは、サンゴや貝、石灰藻などの海洋生物が体内でCO₂と海水中のカルシウムを反応させ、炭酸カルシウムを生成し、それが長い時間をかけて堆積したものです。近年の研究によって、これらの生物が行う反応は、周囲の環境水を即座に酸性化させず、常温・低エネルギーで進行する、きわめて効率的な炭素固定反応であることが明らかになってきました。
この仕組みを理解し、人工的に再現することができれば、海水中に豊富に存在するカルシウムを利用して、大気中のCO₂を固定することが可能になります。さらに、炭酸カルシウムはセメント、製鉄、製紙など幅広い産業で利用されており、そこで生み出された炭酸カルシウムを有効活用できるという利点もあります。
従来は、天然の石灰岩を砕いて炭酸カルシウムとして使用していたため、粒子の形状や大きさを精密に制御することは困難でした。しかし、人工的にCO₂を排出せずに炭酸カルシウムを溶液から生成できるようになれば、ナノ化技術などと組み合わせて、高機能な炭酸カルシウム材料を創り出すことができます。化粧品や食品、紙、樹脂充填剤など、さまざまな分野で、より高性能で環境に優しい素材が誕生する可能性があります。たとえば、強度の高いプラスチック、溶けやすくて吸収しやすい食品素材、粒子が微細で光沢のある化粧品原料などが実現するでしょう。
バイオミネラリゼーションの研究が進展すれば、未来には次のようなことが可能になるかもしれません。
- 炭酸カルシウムを生成する人工プロセスが確立し、大気中のCO₂量をコントロールできる。
- 海水から炭酸カルシウムを生成する事業が誕生する。
- 高機能炭酸カルシウムにより、新しい化粧品・食品・医療・建材素材が創出される。
- バイオミネラリゼーションを担う海洋生物の保護が、炭素循環維持の観点から重視されるようになる。
- バイオミネラリゼーションの仕組みが解明され、有用な分子や生体反応が、医療などに応用される。

未来につながる現在の技術
これまでは海洋での炭酸カルシウムの生成反応は、海水を即座に酸性化させ、結果として海水に溶けていたCO₂を放出させてしまう反応であると考えられてきました。この説は長年にわたって信じられてきたため、炭酸カルシウムの生成を炭素固定の手段として利用する研究はほとんど進展していませんでした。
しかし近年の研究により、生物が行う炭酸カルシウム形成反応は、海水中で起こる無機的な反応とは異なることが明らかになってきました。生物は細胞内や体内の特殊な閉鎖空間で反応を進行させており、その内部ではpHが精密に制御されています。その結果、酸性化を伴わずにCO₂を炭酸カルシウムとして固定することが可能になっていると考えられます。
このような長い間信じられてきた誤解を正すことは、今後の炭素固定研究を進めるうえで極めて重要です。研究者たちは現在、バイオミネラリゼーションの分子メカニズムを詳細に解析するとともに、その成果を社会へ広く伝えることで、新たな炭素循環技術の可能性を切り拓こうとしています。

