
植物資源を効率よく分解し、有用物質へと変えるカギとして、キノコの酵素が注目されています。キノコの研究や培養技術が進展すれば、これらの酵素をさまざまな分野で活用できるようになり、資源循環や新素材開発への応用が期待されます。
植物の細胞壁を分解するキノコの酵素の利用
硬い樹木も分解するキノコの力で、植物資源を有効活用する

植物資源を効率よく分解し、有用物質へと変えるカギとして、キノコの酵素が注目されています。キノコの研究や培養技術が進展すれば、これらの酵素をさまざまな分野で活用できるようになり、資源循環や新素材開発への応用が期待されます。
植物の細胞壁を分解するキノコの酵素の利用
硬い樹木も分解するキノコの力で、植物資源を有効活用する
研究によって実現したい未来
樹木を分解できるキノコの酵素を利用する
植物は、骨や外骨格の代わりに「細胞壁」と呼ばれる丈夫な構造で体を支えています。この細胞壁の主成分はセルロースなどの多糖類で、もしこれらを効率よく分解できれば、グルコースのような単糖に変え、それをもとにバイオエタノール、プラスチック原料、食品素材などを生産することができます。
しかし現在の技術では、セルロースを分解する酵素を利用する際に、植物を細かく粉砕する必要があります。また細胞壁にはセルロースだけでなく、ヘミセルロースやリグニンといった成分も含まれており、これらを薬品で処理して取り除かないと、セルロースを酵素で分解することはできません。こうした工程はコストがかかり、環境負荷も大きいため、実用化には課題が残っています。
そこで注目されているのが、キノコの力です。キノコは、倒木や枯れ木から栄養を吸収して生きています。キノコに分解された倒木は最終的に土に還ります。キノコがいないと倒木はそのままです。このようなことができるのは、キノコがセルロースだけでなく、ヘミセルロースやリグニンなどの分解しにくい成分までも分解できる酵素群をもっているからです。こうした酵素を活用すれば、粉砕や薬品による前処理を大幅に減らし、低コストかつ低環境負荷で植物資源を分解できる可能性があります。

キノコの生態を知ることで新技術が生まれる
近年のゲノム解析技術の進展により、キノコが多種多様な分解酵素を持つことが明らかになってきました。とはいえ、どのような条件で、どのタイミングで、どの酵素を作り出すのかといった仕組みはまだ十分にわかっていません。
キノコの生態や遺伝子の働きを解明し、さらにゲノム編集技術が発展すれば、より多くの有用酵素を効率的に生産できるキノコを作り出せる可能性があります。世界にはまだ詳しく調べられていないキノコが数多く存在します。未知のキノコから、これまで知られていなかった酵素や有用物質が見つかるかもしれません。
また、酵素を生産するためのキノコの大量培養技術が開発されれば、食用以外の用途も広がります。たとえば、すでに注目されている「キノコレザー」のように、キノコ由来の素材を使った新しい産業利用も期待できます。

キノコの研究が発展すれば、未来には次のようなことが可能になるかもしれません。
- 木材や農業廃棄物から、燃料や化学原料を直接つくり出す技術が確立される。
- 新しい種類の分解酵素が発見され、産業に応用できる。
- ゲノム編集によって、人間に有用な酵素を生産するキノコが開発される。
- 食用以外のキノコも大量栽培技術が確立し、キノコ由来の新素材が広く使われるようになる。
- キノコの生態理解が、自然界の炭素循環の解明にもつながる。
このように、キノコ研究は「森の分解者」を、産業や環境保全の主役へと変える可能性を秘めています。
未来につながる現在の技術
現在、ウスバタタケというキノコからとられた酵素製剤「ドリセラーゼ」が日本で商業化されています。これは飼料の消化率を高めるものです。これを飼料以外にも応用できないか、ウスバタケやそのほか酵素を生産するキノコを研究し、その仕組みを詳しく調べています。
また、キノコが持つ酵素は植物の細胞壁を分解する酵素だけではありません。キノコは胞子を撒き終わったら、キノコ部分(子実体)を分解してしまいます。つまり、キノコ自身を分解する仕組みも備えています。そのメカニズムを解き明かせば、食用キノコの新しい利用方法も広がります。たとえば、うま味成分を活かした調味料を開発することが考えられます。
さらに、食用キノコの生産日本一を誇る長野県では、キノコの菌を液体培養する技術が確立されています。これはキノコを大量に栽培するために必要な技術であり、世界的にも高いレベルにあります。この経験とインフラを活かせば、食用だけでなく、産業用のキノコを大量に育てるシステムの開発にもつながります。

