常に外部の異物にさらされ続ける腸は、人体最大級の免疫器官です。腸における免疫機能と食べ物の関係が研究によって明らかになれば、食べ物で腸内環境や免疫細胞の状態を整え、感染症やアレルギー、慢性炎症を予防するという、新しい健康管理の可能性が見えてきます。

感染症防御やアレルギー抑制の鍵は腸にあり

腸管免疫系と食物の関係を研究し、食べて病気を防ぐ未来へ

常に外部の異物にさらされ続ける腸は、人体最大級の免疫器官です。腸における免疫機能と食べ物の関係が研究によって明らかになれば、食べ物で腸内環境や免疫細胞の状態を整え、感染症やアレルギー、慢性炎症を予防するという、新しい健康管理の可能性が見えてきます。

感染症防御やアレルギー抑制の鍵は腸にあり

腸管免疫系と食物の関係を研究し、食べて病気を防ぐ未来へ

研究によって実現したい未来

人体最大の免疫器官である腸

腸は食べ物を消化・吸収する器官であると同時に、ウイルスや細菌などの病原体、さらには体に有害な異物が侵入する最前線でもあります。こうした外来因子から体を守るため、腸は病原体を体内に取り込まない高度な免疫システムを発達させてきました。その結果、体内の免疫細胞のおよそ7割が腸に集積しており、腸は人体最大の免疫器官と位置づけられています。

免疫細胞とともに、腸内でヒトの免疫機能に貢献しているのが、40兆から100兆個生息していると言われている腸内細菌です。腸内細菌と免疫細胞は互いに影響を与え合いながら私たちの体を守っていることがわかってきました。さらに、私たちが毎日摂取する食べ物がこれに作用します。しかしながら、その詳細なメカニズムはまだ明らかになっていません。

腸内における免疫機能(腸管免疫系)を研究するためには、免疫細胞や腸内細菌を単独で調べるだけでは不十分であり、腸内の環境における相互作用を調べる必要があります。現在は、実験動物や培養細胞を用いた研究も行われていますが、評価系として十分ではありません。今後、研究がさらに発展し、免疫細胞・腸の細胞・腸内細菌の相互作用も調べることができる実験系が開発され、そこに入る食物の影響も研究できるようになれば、腸管免疫系の関係性の理解が深まり、予防医療や新たな治療法の開発につながる可能性が広がります。

日々の食事で感染症を防ぐ未来

現在の健康診断では、白血球数を測ることで免疫機能に異常がないかどうかを調べていますが、研究レベルでは、抗体やT細胞・NK細胞の活性など、さまざまな指標が研究されています。これらの指標を臨床や健康診断に応用できれば、より詳細に免疫機能の状態を知り、健康維持や病気の予防に役立てることができます。しかし、そのためには、正常値の基準設定や、医療現場で簡便に実施できる検査手法の確立が不可欠です。今後、そのような技術が発展すれば、健康診断や家庭で自分の免疫機能の状態を詳しく把握できるようになるかもしれません。

さらに、腸内の免疫機能のメカニズムが詳細に分かるようになれば、食べ物と免疫の関係性も明らかにできます。そうなれば、現在の自分の免疫機能の状態に応じて、必要な食べ物を選ぶことができるかもしれません。たとえば、健康診断で明らかになった免疫機能と腸内細菌の状態をもとに、パーソナライズされた食事をAIに提案してもらい、生活習慣病やアレルギー予防に役立てるといった健康管理ができる可能性があります。

腸管免疫系と食べ物の関係を明らかにする研究は、次のような未来の実現につながる可能性があります。

  1. 健康診断などで、自分の腸内細菌叢や免疫機能を知り、日々の健康維持・増進に役立てることができる
  2. 自分の免疫機能の状態に応じてパーソナライズされた食事をとることで病気を予防できる
  3. 腸管免疫系と食べ物の関係が明らかになり、新しい機能性食品が開発される
  4. 日々の食事で病気を防ぐことが可能になり、健康寿命が伸びる
  5. 病気にかかる人が減り、医薬品の使用量を減らせる

腸内細菌、免疫細胞、そして食べ物の相互関係を解明する研究は、私たちが健康に楽しく生きる未来の基盤となるのです。

未来につながる現在の研究

現在、食品と腸管免疫系の関係について、さまざまな研究が進められています。特定のアミノ酸や脂質、糖類、ビタミンなどの栄養素が免疫細胞の機能に影響を与えることや、腸管免疫応答の調節を通じて、感染症やアレルギー、炎症の抑制に寄与する可能性が示唆されている食品成分も報告されてきました。これらの知見をもとに開発された食品も増えており、その一部は機能性表示食品として利用されています。

また、次世代シークエンサーの発展により、多様な腸内細菌の遺伝子配列を網羅的に解析できるようになったことに加え、細菌が産生する低分子化合物の解析技術も高度化してきました。これにより、腸内細菌が免疫機能に及ぼす影響や、その分子メカニズムについても、徐々に理解が深まりつつあります。現在では、腸内細菌叢の状態を解析し、その結果をもとに望ましい食生活についての助言や、腸内環境に配慮した食品の提案を行うサービスも登場しています。

一方で、腸管免疫系と腸内細菌の相互関係は極めて複雑であり、未解明な点も多く残されています。今後、研究の進展によって解析精度や評価精度が向上すれば、「食べることで健康を維持・増進する」社会の実現に、より一層近づくことが期待されます。