現在、排水処理には多様な微生物群の力が利用されています。これらの微生物群の働きを科学的に解明できれば、排水から資源を回収したり、エネルギー負荷を減らしながら水と資源の循環を実現する未来が訪れるかもしれません。

微生物群の働きを解明して活用する

微生物の力で排水から資源を回収し、水環境も守る

現在、排水処理には多様な微生物群の力が利用されています。これらの微生物群の働きを科学的に解明できれば、排水から資源を回収したり、エネルギー負荷を減らしながら水と資源の循環を実現する未来が訪れるかもしれません。

微生物群の働きを解明して活用する

微生物の力で排水から資源を回収し、水環境も守る

研究によって実現したい未来

排水処理を支える微生物の働き

現在、私たちの生活を支える排水処理は、数千から数万種とも言われる多様な微生物の働きを利用して行われています。「活性汚泥プロセス」と呼ばれるこの技術は100年以上の歴史をもち、広く普及していますが、経験的な知識に基づいて発展してきたため、実際にどのような微生物群がどのようなメカニズムで有機物を分解しているのか、その全容はいまだに十分に解明されていません。また、管理も技術者の経験や知見に頼っており、微生物群の働きを自在に制御することはできません。

活性汚泥法では、処理のために大量の酸素を送り込んだり薬剤を添加したりする必要があります。これには多くのエネルギーが使われ、環境への負荷にもつながります。さらに有機物を分解する過程で微生物自身が増殖し、余剰汚泥が発生します。その処理にも追加のエネルギーが必要です。

もし微生物群の特性をより深く理解し、制御できるようになれば、これらの課題の解決の糸口が見えてきます。大量の酸素を必要としない微生物を増やしたり、薬剤の代わりに特定の処理を担う微生物を集団の中に導入したりすれば、より環境負荷の少ない処理が可能になります。現在、一部の余剰汚泥は嫌気発酵によってメタンガスを生成し、エネルギーとして利用されています。今後、微生物の性質を理解して発酵効率をさらに高めることができれば、廃棄物からのエネルギー回収もより効果的に行えるようになるでしょう。

微生物群の働きや特性を理解し、制御する

さまざまな微生物の性質や関係性を把握し、特定の微生物の力を強化または増殖させることができるようになれば、排水中で「何を分解し、何を残すか」を制御できる可能性が広がります。たとえば、地域の水域特性に合わせて排水中の窒素を適切に残したり、有用な物質を回収して再利用することが可能となり、より環境に優しい水循環が実現できます。

また、食品工場などから出る排水を微生物処理し、そこから有用成分を抽出してサプリメントなど高付加価値製品を生み出すことも考えられます。

生物による処理技術は、自然環境中に存在するような「低濃度で広範囲に拡散した物質」の浄化に特に有効です。たとえば河川や地下水などが汚染された場合、その汚染物質を分解できる微生物を検出し、増殖させれば、安全かつ効率的な環境修復が可能です。未知の化学物質が出現したとしても、微生物群の多様性があれば、それに対応できる生物が見つかる可能性は高いのです。

こうした技術が実現すれば、未来には次のようなことが可能になるかもしれません。

  1. 排水処理の省エネルギー化と低環境負荷化
  2. 排水からの資源・エネルギー回収
  3. 地域ごとに最適化された水処理システムの構築
  4. 汚染環境の自律的な浄化
  5. 未知の化学物質に対する安全で柔軟な対応

環境を支える微生物たちの多様性を深く理解し、その力を活かすことができれば、未来の排水処理プラントは、資源を生み出すプラントへと進化するでしょう。

未来につながる現在の技術

こうした未来を実現するために、近年ではメタゲノム解析が活発に進められています。たとえば、活性汚泥に共通して含まれている微生物のゲノム情報をもとに、機能が不明な微生物の捕食や寄生といった能力を推定する研究が行われています。

また、微生物がどのレベルまで物質を分解できるのかを見極める研究も進んでいます。たとえば、炭素の安定同位体(¹³C)で標識した物質を微生物群に与え、どの微生物がそれを取り込むかを特定する手法があります。汚染物質を¹³Cでラベルすれば、その物質を分解した微生物を正確に特定できます。こうして新たに見つかった微生物の性質を調べていくことで、環境保全だけでなく、人間社会にも役立つ知見が次々に生まれています。