スプレーを吹きかけるだけでウイルスを検出できる分子センサー技術が実用化されれば、誰もが簡単に感染の有無を確認でき、感染拡大防止に加え、日常的な健康管理や予防医療の発展にも大きく貢献する未来が期待されます。

分子センサー技術の最前線

自分で簡単にウイルスを検出できるスプレーで感染拡大を防ぐ

スプレーを吹きかけるだけでウイルスを検出できる分子センサー技術が実用化されれば、誰もが簡単に感染の有無を確認でき、感染拡大防止に加え、日常的な健康管理や予防医療の発展にも大きく貢献する未来が期待されます。

分子センサー技術の最前線

自分で簡単にウイルスを検出できるスプレーで感染拡大を防ぐ

研究によって実現したい未来

ウイルス検出に時間がかかる理由

新型コロナウイルスの流行は、人々の命をおびやかすだけでなく、日々の暮らしにも大きなストレスを与えました。特にまだワクチン接種が始まっていなかった時期には、人々は目に見えないウイルスに怯えて暮らしていました。感染を防ぐためには、あらゆる場所を消毒する必要があり、消毒作業は心身の大きな負担となりました。

また、無症状でも感染している可能性があるため、自分が感染しているのかどうかわからず、感染拡大を防ぐために行動を制限せざるを得ませんでした。たとえ疑わしい症状があっても、感染しているかどうかを確かめるためには病院などで検査を受ける必要があり、手間や時間がかかりました。一度に検査できる数には限りがあり、リアルタイムに感染源を特定して感染拡大を防ぐことは難しい面もありました。

自分で検査できる市販の抗原検出キットも登場しましたが、試薬と混ぜる操作や10分ほどの待機時間が必要で、感度も十分とはいえません。自覚症状がある場合に使うことはあるかもしれませんが、日常的な健康チェックとして気軽に使うには適していません。

ウイルスを可視化できると暮らしが変わる

現在、ウイルスを検出する方法は抗原検出とPCR検査が主流ですが、今後、ウイルスの構造と複数の化学反応を組み合わせ、感度が高くノイズを拾わない検査薬が開発・実用化されれば、スプレーとして調べたい箇所に吹き付けるだけでごく少量のウイルスを検出できるようになります。さらにこうした技術はウイルスだけでなく、細菌やがん細胞などの検出にも応用できる可能性があります。

この技術があれば、病院や専門の機関に行かなくても、家庭で唾液をチェックすることで自分が感染しているかどうかがすぐにわかります。簡便な方法なので毎日チェックすることができ、自分の健康管理に役立てることができます。さらに、ウイルス感染のデータを社会で共有することで、どの場所でどのような感染症が流行しているのかを、天気予報のように把握することもできるかもしれません。

ウイルスを可視化できれば消毒作業の負担も減らせます。すべての場所を消毒するのではなく、検出スプレーを吹きかけ、ウイルスが存在する場所だけを効果的に消毒できるからです。さらに食品にも使える成分で検出薬を作ることができれば、食材にウイルスや細菌が付着していないかを確認することもできます。これにより、飲食店などの食中毒も防ぎ、食材の廃棄も減らせる可能性があります。

このような技術が発展すれば、未来には次のようなことが可能になるかもしれません。

  1. 家庭や学校、職場で、すぐに感染の有無を確認できる。
  2. ウイルスが付着した場所だけを可視化し、最小限の消毒で衛生環境を維持できる。
  3. 食品や調理器具にウイルスが付着していないかを、自宅や飲食店で簡単にチェックできる。
  4. どの場所でどのような感染症が流行しているのかを、天気予報のように把握することができる。
  5. ウイルス検出原理を応用し、がんや細菌感染などの早期診断にも利用できるようになる。

誰もが日常的に健康状態をチェックできるようになれば、病気の早期発見や予防医療の発展につながり、感染症の流行時にも社会活動を必要以上に止めずに済む未来が期待されます。

これらを実現する現在の技術

現在、ウイルスを検出するためには、抗体反応を利用した抗原検査かPCR法が使われています。前者は微量のウイルスを検出する際にバックグラウンドのシグナル(ノイズ)を除去するため、洗浄の工程が必要です。また、PCR検査ではRNAの抽出や増幅などの専門的な操作を行います。どちらも家庭で簡単にできるものでもなく、すぐに結果が分かるというわけにはいきません。

しかし近年、さまざまな分子を組み合わせてセンサーを作る分子センサー技術の発展により、特定の分子に結合したときのみシグナルを出す新しいセンサーが開発されています。たとえば、ウイルスの特定の部位を認識して結合するDNA断片(アプタマー)を利用し、ウイルスの特定の部位を認識する抗体とアプタマーが近接したときだけ光を発するように設計する方法です。これにより、洗浄工程を省いても高感度でウイルスを検出できるようになります。この光は暗い場所では肉眼でも確認することができ、スマートフォンなどの身近なカメラを使って光を分析し、定量的にウイルスの量を測定することも可能です。

また、検出する対象や条件に応じて結合部位や検出方法を設計できるため、ウイルスだけでなく細菌やがん細胞なども高精度で見分けられる可能性が広がっています。このような洗浄のいらない高感度検出技術の進展によって、将来的にはスプレーやシートなどの簡便な形で、誰でもウイルスの有無をすぐに確認できる時代が訪れるでしょう。