研究室立ち上げ(スタートアップ)・短期海外滞在にどう役立ったか
助成金活用の実際

日本農芸化学会ではこのたび、会員の皆様からのご寄附によって、若手研究者を支援する2種類の助成金を立ち上げ、募集を行いました。
1つ目は若手研究者の研究室立ち上げ(スタートアップ)を支援する助成金、もう1つは、短期海外滞在を支援する助成金です。
本記事では、これらの助成金をより広く知っていただき、また次回の応募につなげていただくことを目的に、今回の選考を通過し、助成金の交付を受けた3名の会員にお集まりいただきました。
それぞれのスタートアップ期の悩みや、短期海外滞在の意義、そして助成金に応募した感想について、座談会形式で語っていただいています。ぜひ次回応募の参考としてお読みください。

座談会出席者

■FUTURE農芸化学100 若手研究者スタートアップ助成金

高田 啓
富山県立大学工学部生物工学科・講師
研究課題(研究室立ち上げ時のテーマ)
「微生物翻訳制御因子の多様性に基づく生命現象の解明と応用展開」

西村 明
岩手大学農学部食料農学科・教授
研究課題(研究室立ち上げ時のテーマ)
「酵母におけるトランスセプターを介した栄養源感知と代謝制御機構の解明」

■FUTURE農芸化学100 短期海外滞在助成金

米山 香織
埼玉大学研究機構・テニュアトラック准教授
研究課題「トマトにおけるストリゴラクトン生合成・分泌調節メカニズムおよび共生微生物リクルート」

■若手研究者スタートアップ助成金について
――スタートアップ助成金に応募された背景をお聞かせください。

西村 助成金のことを知ったのは、研究室を立ち上げたばかりの時期で、研究設備や人的環境が十分とは言えない状況でした。後任人事ではなかったので、本当に何もない倉庫のような部屋からのスタートでした。

ですから、その頃は申請書を書き、見積もりを取り、外部資金の獲得に向けて動くこと自体が大きな仕事になっていました。研究を前に進めたいという思いはあっても、そもそも学生を受け入れるための机もない状態でした。そのもどかしさの中で本助成金の募集を知り、ぜひ挑戦したいと考えました。研究室を「研究できる場」にするための最初の一歩として応募しました。

高田 私は、この富山県立大学に来るまでは、ずっと研究員として勤務していました。その頃から「独立するときに持っていけるものは、少しずつ準備しておいた方がいい」と助言を受け、少しずつそろえてきました。しかし、いざ研究室を立ち上げてみると、やはり十分とは言えず、全然足りないなと思いました。

日々の業務に追われる中で農芸化学会のホームページで本助成金を知り、採択される可能性を検討することもなく、すぐに応募しました。若手研究者として最初の基盤を整える貴重な機会だと考え、応募しました。本助成金は、立ち上げ期の研究者にとって非常にありがたい制度だと感じています。

――助成金はどのように活用されましたか。

西村 学生の机、さらに実験台を整備しました。用途が自由であった点は非常にありがたかったです。実験用の安全メガネや冷蔵庫、消火器などの細かな備品も一度にそろえることができました。もし本助成金がなければ、学生用の机を十分に整備することはできなかったと思います。そうなれば、学生に十分な環境を提供できず、配属人数を制限せざるを得なかった可能性もあります。

高田 私はプレートリーダーを購入しました。そのおかげで研究の質とスピードが大きく向上しました。助成金の面接では「本当に必要ですか」と質問を受けました。もちろん、プレートリーダーがなくても、一つひとつ手作業で進めることは可能です。しかし、このような装置があることで、学生がより主体的に研究を進められるようになります。たとえば新しいテーマを探索する際のスクリーニング実験も迅速に結果が得られ、次の段階へすぐに移ることができます。また、新しい装置を使ってみたいという意欲が、実験へのモチベーション向上にもつながっています。

学生には研究を楽しんでほしいと考えています。そのための環境を整えることも、研究室の主宰者(PI)の重要な役割の一つではないかと思います。面接ではそのような考えをお伝えし、「装置があることで研究室の雰囲気が大きく変わる」という点を説明させていただきました。

■短期海外滞在助成金について
――米山先生は、なぜ短期海外滞在助成金に応募されたのですか。

米山 助成金のことは、農芸化学会のリマインドメールで知りました。そのとき、体調を崩して自宅療養をしていて、もしかしたら検査の結果次第では余命数か月かもしれないという状態だったんです。結局、検査結果は陰性で、今も元気にしていますが。

大学業務が増える中で、研究に専念する時間を確保することの難しさを感じていました。論文を書く時間や研究についてじっくり考える時間が、どうしても細切れになってしまいます。その状況を一度リセットし、研究に集中する時間を持ちたいと思いました。海外に2か月滞在するというのは、普通なら「短い」と思う期間かもしれません。でも、2か月だからこそ、大学の業務の中でも何とか時間をつくって海外へ行けますし、その間、研究だけに集中できるなら、できることはたくさんあると思って応募しました。

――滞在ではどのようなことを目指されていますか。

米山 自分の研究テーマと関連の深い海外研究室に滞在し、実験手法や研究環境を直接体験したいと考えています。論文からは見えない実験の工夫や研究室の運営方法を学ぶことで、自身の研究室にも還元できると期待しています。また、競合する研究者と同じ空間で議論できることも大きな刺激になると思っています。

■助成金の応募が背中を後押ししてくれた
――今回の助成金について、みなさんはそれぞれ、どのように感じておられますか?

高田 応募する過程で、自分の研究計画をあらためて文章化できたのは、とてもよい機会だったなと思います。それを農芸化学会のさまざまな先生方に見ていただいたり、面接で実際に議論できたりしたのも良かったです。だから、本当に「通るかどうか」よりも、「聞いてもらえるいいチャンスだな」という気持ちで応募しましたね。

西村 同感です。僕は「トランスセプター」という酵母の膜タンパク質の研究をしているんですが、まだあまり知られていない、かなり特殊なテーマです。これをメインに研究室を立ち上げていいのか、少し迷いもありました。でも、スタートアップ助成金の申請書に思いの丈を書いたことで、迷いが吹っ切れた感じがしました。

米山 私も、短期海外滞在で2か月の間にやりたい研究テーマがあって、面接で話を聞いていただきました。「そういう考えもあるよね」と言っていただけたことが、とても励みになりました。病気をして人生を見つめ直したことも大きなきっかけではありますが、もしこの助成金がなければ、短期海外滞在に踏み切れなかったと思います。本当に、背中を押してもらった感じですね。

高田 この農芸化学会のスタートアップ助成が、会員の方々や企業からのご寄附によって成り立っているということに、僕は申請してから気づいたんです。そうしたご協力があって助成金をいただけたということが、まず本当に嬉しかったですし、それと同時に、大きな勇気をもらいました。その意味でも、とてもありがたいと感じています。

米山 高田先生のお話にもありましたが、寄附してくださった方々、そして農芸化学会からいただいた資金で、自分の研究に全力で取り組めるということは、本当にありがたいことだと思っています。自分の気持ちを満たすだけでなく、将来的には日本だけでなく、世界のサイエンスに貢献できるようにつなげていけるよう、このチャンスを生かしていきたいです。

西村 お二人がいろいろ言ってくださったので、同じようなことしか言えませんが、勇気をもらえたのは確かです。僕は以前、医学部にいたこともあって、農芸化学会に加わってまだ5年ほどです。今回の助成金への応募をきっかけに、会員の方々に自分の研究や自分自身のことを少しでも知ってもらえたらいいな、という思いもあります。いつか、「トランスセプター=岩手大学=西村」とイコールでつながるように、頑張っていきたいと思っています。

座談会を通して改めて見えてきたのは、助成金の価値は資金面だけにとどまらない、ということでした。応募に向けて温めてきた研究計画を言語化する過程は、自身の研究の方向性を整理し、自分が何を明らかにしたいのかを見つめ直す機会になります。
日々の業務に追われる中では後回しになりがちな作業ですが、その経験はモチベーションを保ちながら研究を進めていくうえで、かけがえのないものになると3名の受領者は語ってくれました。
また、面接では農芸化学会の先達から直接助言を受け、自分の研究を客観的に捉え直す貴重な時間が生まれたといいます。その経験は、スタートアップの地盤を築く糧となり、あるいは思い切ってこれまでとは異なる環境に飛び出し、短期海外滞在に挑戦する後押しにもなりました。
研究室の立ち上げや海外での研究活動を検討されている方は、ぜひ一度、本制度の募集要項をご覧ください。その一歩が、数年後のご自身の研究を支える確かな土台となることを願っています。

助成金交付者インタビュー動画

FUTURE農芸化学100 若手研究者スタートアップ助成金
2025年度交付者
高田 啓(富山県立大学工学部生物工学科・講師)

FUTURE農芸化学100 若手研究者スタートアップ助成金
2025年度交付者
西村 明(岩手大学農学部食料農学科・教授)

FUTURE農芸化学100 短期海外滞在助成金
2025年度交付者
米山 香織(埼玉大学研究機構・テニュアトラック准教授)